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【漫画】うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち【田中圭一】

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手塚治虫の最低パロディでお馴染みの田中圭一さんが書いた「うつ治療」をテーマにした漫画。

私はこれまで彼の作品を『神罰』しか読んでいなかったため、正直言って作者に好感を持っていなかった。

神罰』は田中圭一抜群のユーモアセンスと高い画力による読みやすさが確認できる力作ではあるのだが、タカラ社員時代の新人いじめエピソードには猛烈に嫌悪感を抱いた。

「才能あるし面白いんだけど、いくら創作とはいえあんなイジメ話読みたくないわ」という壁が出来てしまったのである。

とはいえ「まぁイジメ云々はアングラ作家が15年以上も前に披露したネタだ、今更蒸し返してもしょうがない」ってことで『うつヌケ』を読んでみた。

 

この作品に書かれていることはうつ経験者なら共感できる部分も大いにあるが、初期症状から治療方法まで知識としてはすでに広まっているものばかり。

森田療法、気候との関係性、呼吸法、山登り、アファーメーションなど、どれも耳にタコができるほど聞いた事がある情報で、特効薬になりそうな新ネタは正直言ってあまり無い。

登場するのも皆ひとかどの人物ばかりで、能ある自由業者や公務員にうつ経験を語られても正直言って自分との距離を感じてしまう。

サンプルが偏っているため、「じゃあ貧乏で頼れる人もいない無能中年はどうしたらいいの?」という疑問が消えないのだ。

うつ病の人に一億円あげたら治る」というフレーズをネットでよくみかけるが、私自身はその「一億円もらったら治るタイプの鬱」である(正確に言うと軽度の躁鬱)。

金さえあれば無理して働かずにすむ。

働かずにすむのなら、大部分のストレスを遮断することができる。

したがって精神病になるリスクは大幅に減らせる。

極論すれば、多くの人にとって鬱は貧乏病なのである。

 

というわけで私の想定している鬱像とは異なるが、本作は読み物として面白いし、あまりないタイプのレポート漫画として新鮮に読むことができる。

この作者、ほんっとに漫画描くの上手い。

異常に読みやすいもんなぁ。

 

神罰』では露悪や下ネタ方面に放射されていたエネルギーが、今度は人を救うために放射されている。

これはべつに不思議な事ではなく、山野一みたいに「露悪をキッチリ描ける人の方が実際はバランス感覚に優れている」というのはよくある話。

蝶野正洋のような悪役レスラーの方が普段は常識人」みたいな、ごく当たり前の現象である。

 

「この本を読んでうつが治った」という事は少なくとも自分にはありえない話だが、面白い本を読んでストレスが軽減されたという手応えはある。

トンネルの中にいる人もヌケた人も一読の価値あり。

 

【評価】70点

【作者】田中圭一