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【漫画】貧困魔境伝ヒヤパカ【山野一短編集】

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先日『四丁目の夕日』を読んでけっこう疲れたので、「この手の悪趣味漫画はもう読むまい」と思っていたのだが、好奇心には勝てずつい読んでしまった。

ああもう、嫌だなあ。

 

  •  【人間ポンプ】

わりとベタな残酷物語、というかギャグ漫画。

なんだか小林よしのりの『おぼっちゃまくん』みたいだ(表情とかうんこ塗れになる所とか)。

「ポンプを漕ぐしかない」という絶望的状況をあっさり作り出す手際の良さが見事。

 

  • 【きよしちゃん 紙しばいの巻】

障〇児と老人を身も蓋もなく虐めただけの作品。

まあたしかに紙芝居屋の爺さんが現れて飴をくれたり紙芝居を見せられても、現代っ子は喜んだりしないだろう。

普段虐められているきよしに老人虐めをやらせる辺りが徹底している。

何が屈辱かを知った上で虐めるのが本当の虐めなのである。

子供は嫌だなあ、老人も嫌だなあ、私は中年で良かった。

 

「たとえどんなに出来の悪い子でも、親から見れば子供は子供。愛おしくて当然」という前提をひっくり返すために描かれた作品。

「反出生主義」を肯定するかのような話だが、山野さんは今では二児の父親なわけで、世の中わからんものである。

 

  • 【ビーバーになった男】

「馬鹿に含蓄のある話や比喩表現は通じない」という事実をテーマにした作品。

これもまあけっこうストレートなギャグ漫画だと思う。

悪意少なめ。

 

  • 【荒野のガイガー探知機】

『マッド・マックス』、『北斗の拳』、『フォールアウト』を思わせるような核戦争後の世界が舞台の話。

これまで「貧乏だけど真面目な人」をさんざん嬲ったくせに、悪人には美しい肉体と極楽を与えるというインモラルさが実に山野一らしい。

そして、そんなことは大日如来にとってはインモラルでもなんでもないという事を印象付ける一言「そんなもんなんです」が強烈。

親鸞言うところの「悪人こそが救われる」というのがこれなんだろうか。

この作品が個人的ハイライト。

早すぎた『GANTZ』とも言える。

 

「馬鹿で貧乏で不細工な奴に良い事なんてあるわけねーだろ!」としか言っていない作品。

「熊谷の採掘場に新婚旅行」という状況はなかなかシュールだが、完成度は低い。

こうした「お互い何が良くて結婚したんだろう」という夫婦はかつてたくさんいたよなあ。

 

  • 【パチンコのある部屋】

いわゆるパチンカスの末路を描いた作品。

おっさん版『パンズ・ラビリンス』に見えなくもない。

完成度低め。

 

  • 【旅情】

「課長と平社員」という地味な格差を描いた作品。

現実的にはこういう微妙な格差が最もストレスを感じやすかったりする。

それほどキツイ話じゃないなと思って油断していたら、「変な赤ん坊ができてしまう」というとどめの一発が待っていた。

しかも、なんで後ろで大仏が光っとんねん!

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極端な金持ちと極端な貧乏人には次元の断層ができるぐらいに隔たりがあるが、意外と気心が知れたりするという部分がリアル。

まあ「コギャルはわりとキモヲタに優しい」みたいなものか。

 

  • 【星の博士】

電波系性犯罪者の漫画なのだが、ストレートすぎてどうもなぁ。

羅列されたウンチクもいまいち。

 

  • 【押入れの女】

坂口安吾作『白痴』の浪人生版。

どう見ても描きかけだろコレ。

物足りないと思った方は是枝裕和の『空気人形』 を観るといいかもよ。

 

  • 【侏儒の家】

いわゆる初潮もの。

つげ義春作『紅い花』に対するオマージュだろうな、たぶん。

この時期の山野の絵柄は徳弘正也に似ている。

 

  • 【太陽とダリヤ】

うーん、似たような話が続いているのでインパクトに欠ける。

「生前ソープ嬢としてのべ数千人のシルをぬいた実績が正当に神様に評価された」という謎フレーズは、サラッと神を馬鹿にしていて面白いかも。

 

  • 【のうしんぼう】

言うまでもなく『ねじ式』に対するオマージュ作品。

たしかジョージ秋山の『銭ゲバ』にもあったと思うが、漫画と写真のコラージュは心臓に悪いからやめてくれ。

そういうの苦手。

 

  • 【総評】

完成度、作風、絵柄にバラつきがあるため、山野一「強いこだわりがあるように見えるが、実は何事にもこだわっていない」という特性がよく表れている(貧乏というテーマは通底しているが)。

後にねこぢるyや『そせじ』といった作風を獲得できたのも、こだわりのなさ故である。

貧乏人虐めには独特のセンスを感じるが、作品によってはつげ義春諸星大二郎エピゴーネンになってしまうのが惜しい所。

今回も毒が強くて読むの疲れたから、もう当分山野さんの作品はいいや。

 

【評価】65点

【作者】山野一